
対日請求権資金、北朝鮮の経済開発のための「種銭」になるか
- 北朝鮮、「二つの国家論」を持ち出して日本との交渉を秤にかける
- 戦争賠償金より規模の大きい植民地賠償金を要求する可能性

チョン・グヨン元 大統領府 行政官
2018年と2019年、北朝鮮の金正恩国務委員長と米国のドナルド·トランプ大統領の間で2回にわたり米朝首脳会談が開かれた時、最大懸案は北朝鮮核問題の解決だった。しかし、別の次元で関心を集めたのは、北朝鮮と日本の国交正常化、すなわち日朝関係の正常化だった。
当時、トランプ大統領は北朝鮮が日本から受け取る対日請求権の資金を金正恩委員長の核放棄を圧迫できる重要なカードと見ていた。対日請求権の資金は、包括的な対北朝鮮制裁に当たらない可能性が高く、北朝鮮としても非常に有用な資金と言わざるを得ない。
第2次世界大戦が終わった1945年、連合軍は敗戦国である日本に大規模な賠償責任を課した。 戦争で破壊された被害国の社会間接資本(SOC)を再建するのに、日本が直接資金を支援すべきという意味からだ。このため、日本の侵略に被害を受けたアジア諸国は、次々と賠償金を受け取った。

1954年ミャンマー(旧ビルマ)が2億ドル、1956年フィリピンが5億5000万ドル、1958年インドネシアが2億2300万ドルを受け取った。韓国は1965年、無償3億ドル、有償2億ドル、民間商業借款3億ドルの計8億ドルに達する対日請求権資金の確保に成功した。
1966年から1975年までの10年間、対日請求権資金の執行実績をまとめて記録に残した「請求権資金白書」によると、浦項製鉄建設に無償3億ドルのうち3080万ドル、有償2億ドルのうち8868万ドルなど、計1億1948万ドルが投資された。
浦項製鉄建設は1970年代、韓国の産業化過程において欠かせない奇跡の歴史だ。特に、重化学工業の建設過程で要求される素材と中間財の自主供給が可能になったことで、韓国の産業化水準を大きくアップグレードする決定的な要因になった。韓国産業化の大動脈の役割を果たした京釜高速道路建設も、対日請求権資金で可能になった。
これだけではない。国土総合開発事業の象徴である昭陽江ダムの建設も、総所要資金2161万3000ドルの全額を対日請求権資金で充当した。6年半の工事期間がかかったアジア最大であり、世界4位規模であるこのダムは、土木工事によって漢江流域一帯の洪水調節機能、水害予防、生活用水と農工業用水の問題を一挙に解決した。
2018年6月、シンガポールのセントーサ島で史上初の米朝首脳会談が開かれた翌日、サムスン証券は北朝鮮が対日請求権を行使して200億ドルを受け取ることができ、これを経済開発のための「種銭」として活用可能だという分析をした。過去の韓国のように対日請求権資金を産業化のために十分に活用する場合、北朝鮮経済にとってプラスになるということである。
サムスン証券は対日請求権資金に対して「2002年にあった初の日朝首脳会談で北朝鮮が日本に300億~400億ドルを要求したという説があり、日本は100億ドル水準で提案したという報道があった」と伝えた。さらに、16年前の100億ドルを消費者物価や購買力を計算し、現在の価値に換算すれば、200億ドル水準だというのがサムスン証券の説明である。これを今年の基準に換算する場合、さらに上がる公算が大きい。
日朝首脳会談は金正日総書記と小泉純一郎元首相によって2002年と2004年の2回にわたって開かれた。
2002年には平壌宣言を通じて日本の植民地支配の謝罪、日本人拉致被害者問題、北朝鮮の対日請求権、核·ミサイルなどの安全保障問題を議論することにした。2004年には、日本人拉致被害者のうち5人が日本に一時帰国する成果を上げた。しかし、2006年に北朝鮮ミサイルの試験発射、核実験などにより日本が北朝鮮制裁を決議し、日朝関係改善は中断された。
安倍晋三元首相は2014年と2018年など数回にわたって北朝鮮との首脳会談を推進したが、いずれも失敗に終わった。昨年1月には史上最低水準の支持率を記録していた岸田文雄元首相が日朝首脳会談を逆転のカードとして活用しようと北朝鮮に対するアプローチを見せたが、やはり成果はなかった。
通常、日本の政界では日朝関係改善が政治的な好材料とされる場合がある。実際、小泉元首相が金正日総書記との首脳会談を通じて、日本人拉致被害者の一時帰国を成功させた時は、内閣の支持率が20%ポイント以上あがった。当時、官房副長官だった安倍元首相は、一時帰国した日本人拉致被害者を北朝鮮に帰さなことによって、世論の支持によって次期指導者として浮上した。
最近の北朝鮮は南北関係と関連して「二つの国家論」を持ち出し、再び日本との交渉を秤にかけている。石破茂首相も金正恩国務委員長との会談が必要だとし、日朝首脳会談に意欲を示している。米国も、北朝鮮の非核化と経済開放の過程で、日本の役割に期待を高めている。このため、今後、日朝国交正常化交渉が進めば、対日請求権の資金問題が主要なテーマとして浮上する可能性が高い。
現在、北朝鮮が主張している対日請求権資金は、戦争賠償金ではなく植民地賠償金で、戦争賠償金形式の韓国の対日請求権資金とは性格が異なる。植民地賠償金の規模は戦争賠償金より大きい。
北朝鮮が日本から対日請求権による資金を受け取るなら、これをどのように活用するかは予測し難い。ただ、対日請求権資金の一部を経済開発のための資金として活用する可能性は排除できない。