
趙甬元を通して見た金正恩のリーダーシップ
チョン・ジュンヒ(統一研究院講師)
⃞ 趙甬元(チョ・ヨンウォン)の歩みと小さな変化
北朝鮮の党総書記である金正恩は今年2月16日、金正日の誕生日(光明星節)を迎え、4年ぶりに錦繍山(クムスサン)宮殿を参拝した。先代偶像化よりも金正恩だけの権力強化に力を入れていた最近の傾向と多少異なっている点で注目された。もう一つ関心を向けるべき点として、金正恩の最側近である趙甬元労働党組織秘書が金正恩に随行する代わりに、党と政府幹部の参拝行事に参加したという点だ。これまで先代の誕生日や新年の参拝行事に欠かさず金正恩に随行していた趙甬元がいなかったというのは異例のことだと見られる余地がある。
金正恩の信任が薄れたのではないかという推測も出ている。しかし、考え方を変える余地もある。党と政府幹部の参拝行事を見ると、朴泰成(パク·テソン)、趙甬元、崔竜海(チェ·リョンヘ)の3人が幹部らの前に並んで立っている。3人がそれぞれ立法府と党、政府の最高位職なので、趙甬元は党の代表資格で参加したようであるという感じだ。今のところ、金正恩が腹心のように思っている趙甬元に対する信任が変わったのかを知る術はないが、このような小さな変化を通じて、金正恩のリーダーシップを振り返ることも意味があるだろう。
⃞ 趙甬元の成長背景
趙甬元は「金正恩の影」とされる。趙甬元は現在、労働党政治局常務委員、党中央委員会組織秘書、党組織指導部長、党中央軍事委員会委員、国務委員会委員などを兼ねている。金正恩と金与正に次ぐ北朝鮮権力の核心的な実力者で、金正恩の右腕であり腹心として北朝鮮権力のナンバー2と言っても過言はない。
金正恩を脅かすことのない趙甬元の出身背景とともに、後継者時代から金恩正に仕えた経歴が大きな資産として作用したのであろうが、金正恩の処世術も大きな役割を果たしたものとみられる。金正恩は、信任する部下であっても過ちを犯せば容赦なく処罰したが、政権初期から金正恩に随行した朴泰星と朴正天(パク·ジョンチョン)は2度も解任されたことがあり、金徳勳(キム·ドクフン)、李炳哲(リ·ビョンチョル)などの主要幹部らも公開的な批判を受けた。
ところが趙甬元は2025年現在、一度も降格解任や公開批判を体験したことがない。これは金正恩の厚い信任、そして趙甬元の能力と巧みな処世術の結果と考えられる。趙甬元の処世術の中で最も大きな長所はいわゆる「過度でない」言動で知られている。他の幹部が金正恩の隣について報告したり、言葉を交わそうとする時も、趙甬元は数歩離れたところで静かに見守るということだ。 「趙甬元の落ち着いた性格と身につけたお世辞などの処世術が出世に役立っただろう」という脱北者の言葉もある。
また、趙甬元は金正恩の妹である金与正にも格別に力を入れているという。 実際には金与正を凌駕する権力と決定権を持っているが、趙甬元は金与正の入党保証人という話が出るほど信頼を維持しており、金与正の「心気の警護」までしているとも伝えられる。
ともかく、趙甬元は2014年に金正恩を初めて公開遂行した以後、遂行頻度がはるかに高くなり「金正恩の影」として活動しながら能力を発揮した。2014年5月、平壌で23階建ての新築マンションが崩壊し、数百人の死者が発生した時、異例に北朝鮮の高官が住民たちに頭を下げて謝罪する場面が公開されたが、これは「趙甬元のアイディア」と言われている。
特に趙甬元主導で進められる反市場化政策など、過去の計画経済回帰政策による統制強化に北朝鮮住民はもちろん幹部たちも疲労感を感じていると伝えられた。趙甬元が「反動思想文化排撃法」などの「悪法」を押し続け、北朝鮮内部では粛清の血風が吹くようになった。処世術に長けた趙甬元が万人の恨みを買っているということだ。
⃞ 先代と異なる金正恩のリーダーシップ
すべての指導者ならば、徹底した自己管理と業務処理能力、優れた処世術を持ったを趙甬元好むだろう。金正恩は趙甬元をどこまで信頼し、それを通じて何を成し遂げようとしているのか。リーダーシップは指導者の権力を維持、強化しながら国家の目標を達成するのに利用可能な人的、物的資源を最適化させる能力である。
金正恩のリーダーシップは、政権10年余りが過ぎ、ある程度輪郭が明らかになった。父である金正日と差別化し、自分なりのやり方で北朝鮮を統治するようになった。
父の金正日は、清廉で権力に欲のない人、政権に脅威にならないながらも能力を備えた昔風の学者のような風貌に似た人たちを好んだ。そして、分割統治(divide and rule)手法で主要権力機関の責任者たちを互いに牽制させ、自分の権力を狙うことができないように幹部たちを差別化し、競争させた。
例えば、軍部は総参謀長、軍政治局長、人民武力部長にそれぞれ陸軍、空軍、海軍の代表人物を任命して牽制と競争構図を作り、少数の秘密パーティーを通じて参加者の忠誠心を引き出した。そのような理由から制度的な政治と均衡が瓦解し、金正日特有の側近政治、宴会政治によって人的関係の均衡に重点を置くようになった。
金正恩も金正日のように清廉で権力欲のない人を好むという点では同じだが、権力エリート間の均衡よりは制度的な均衡を通じて自分の権力を維持、強化するという差別化されたリーダーシップを見せている。
金正恩政権後、党全員会議、政治局会議および常務委員会会議など党の制度的協議体を復活させ、第8回党大会を基点に党の指導と政策執行を担当する政治局常務委員会と秘書局の権能を大幅に強化した。特に政治局常務委員会は職務を中心に党、軍、政権機関を代表する人物で構成した。しかし、政治局常務委員であっても独立的地位ではなく、最高政策決定者の統治行為を助けて執行する水準の垂直的な位階に置かれた人物に過ぎないという点を明確にしている。
2021年第8回党大会において趙甬元は組織秘書に選出され、2022年第8期第5回全員会議で組織指導部長に任命された。しかし、北朝鮮は同時に党中央検査委員会と中央検察所の強化、軍政指導部、規律調査部、法務部の新設などでこれ以上、組織指導部が党内で統制、監視機能を独占できないようにした。
1948年の第2回党大会以降、微々たる機関だった党中央検査委員会が、第8回党大会では党の財政権と検閲権をすべて掌握した強力な機構に復帰し、秘書局内部において趙甬元組織秘書は統制、監視権限を党中央検査委員長兼秘書と分担するようになり、第5回保衛一軍大会を朴正天が指導することで、軍統制も軍政担当秘書とも分担するようになったものと見られる。
金正恩は趙甬元の権威を高めながらも、彼がすべての主導権を独占することを許さなかった。第8回党大会以降、金正恩は党中央検事委員会を補佐する規律調査部、中央検察所などの組織指導部以外の組織も強化することで、制度的に分割統治を実施している。
それだけでなく、金正恩は趙甬元以外にも金徳勳、朴正天の他の幹部たちにも以前になかった特別待遇を見せるなど、権力エリート内部のバランスを維持しながら、自分に対する政策的補佐を積極的に要求している。
⃞ 今後、金正恩のリーダーシップ変化の可能性
趙甬元は引き受けた業務と対外的にも見栄えする地位にあるという点が目立つが、趙甬元が他の幹部に比べ、相対的に優位にあり、本質的に優越な地位にあるかと問われれば、そう見ることは難しい。
様々な公式的な制度の変化を通じて、金正恩は趙甬元との上下関係を確固たるものにしており、制度内で権力エリート間のバランスを保つようにした。 そして、趙甬元が持つ専門性の限界と北朝鮮の幹部政策を考慮すれば、彼の影響力は代替可能だということは間違いないだろう。他の幹部たちと同様に、金正恩の許可なしには維持できず、必要に応じていつでも交代される。
金正恩は、党と国家の最高職位ではない軍の最高職位を最も優先的に継承し、リーダーシップ構築の過程で自分の唯一の権力化と北朝鮮体制の変化を模索しながら、党と軍の最高エリートに対して頻繁な粛清など、恐怖政治を敢行した。
また、政権スタート後に新しい体制ビジョンを提示したが、社会主義文明国建設を目標に経済管理改善、経済·核武力並進路線を提示し、市場を黙認する政策など体制変化を模索したりもした。しかし、2019年に米国との首脳会談が失敗し、新型コロナウイルス感染症の危機状況を迎え、変化よりは再び統制の方に方向を転換した。
2024年12月末の党全員会議と2025年1月の最高人民会議でも統制強化の傾向を見せた。金正恩が政権初期から強調してきた内閣責任制に対する言及も、金正恩ではなく朴泰成首相が繰り返し強調しただけで、思想教育の強化などが強調された。人事改編においても教育を担当していた朴泰成を総理に任命したが、全般的に技術専門官僚による体制改革よりは党籍指導による体制統制に、より一層依存するという点を示唆した。
金正恩が北朝鮮体制を変化に導くのか、それとも独裁の強化によって自分だけの権力強化に進むのかに対する展望をする上で、趙甬元のような側近の活用と浮沈のような権力構図の変化が一つの指標になるだろう。ただ、現在は体制変化よりは金正恩自身の権力強化にさらに気を使っている様子が見られ、残念なだけだ。